パリ・オペラ座バレエ 団
“ラ・バヤデール”

2003年 3月30日(日) 1:30p.m. NHKホール

全3幕
台本:マリウス・プテイパ
   セルゲイ・クデコフ
振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ
   (マリウス・プテイパに基づく)
音楽:ルートヴィヒ・ミンクス
編曲:マイケル・カーン

舞台美術:エンツィオ・フリジェリオ
衣装:フランカ・スクァルチャピーノ
照明:ヴィニチオ・チェリ

パリ・オペラ座初演:1992年10月8日

東京 シティ・フィルハーモニック管弦楽団
指揮:ヴェロ・ペーン

キャスト
ニキヤ(寺院の舞姫):クレールマリ・オスタ
ソロル(戦士):マニュエル・ルグリ
ガムザッティ(ラジャの娘):レティシア・ピュジョル
:アレッシオ・カルボネ
ファキール:リオネル・ドラノエ
大僧正:リシャール・ウィルク
ラジャ:ジャン=マリー・ディディエール
影の国ヴァリエーション1:ステファニー・ロンベール
影の国ヴァリエーション2:メラニー・ユレル
影の国ヴァリエーション3:エレオノーラ・アバニャート

STORY
■第1幕 第1場:寺院の前
勇敢な戦士ソロルはラジャに虎の皮を贈ろうと、友人を狩りへと送りだす。彼は愛す るニキヤ(聖なる火を守る巫女の一人) に密かに会うため寺院のそばにとどまり、彼女に愛を誓う。
やはりニキヤを密かに愛する大僧正が彼らの逢瀬を目撃し、激しく嫉妬する。

■第1幕 第2場:ラジャの宮殿
ラジャは娘のガムザッティの手をソロルへと渡す。誓いによって、ニキヤと結ばれた ソロルにとってこれは受け入れ難いことだったが、 やむなくラジャに従う。
大僧正がラジャを訪れ、ソロルとニキヤの秘めた関係を教える。
ガムザッティは彼らの会話を聞き、自分とソロルの婚約を知らせるためにニキヤを自 分のもとに来させる。 ニキヤはソロルが自分との誓いを破ることを認めない。二人の敵同士は喧嘩をはじめ る。 ニキヤは短剣でガムザッティを脅すが、王女の召使い、アイヤが一撃を食い止める。 ガムザッティはこの生意気な巫女を消し去りたいと願う。

■第2幕 ソロルとガムザッティの婚約式
祝宴がとり行われ、ニキヤは客の前で踊りを披露するためにそこへ呼ばれる。ガムザッ ティの侍女アイヤはニキヤに花篭を渡す。 ニキヤはその中に隠されていた蛇に噛まれ、致命傷を負う。
大僧正が割って入り、ニキヤに、自分の愛を受け入れることを条件に解毒剤の提供を 申し出る。 ソロルがガムザッツティを拒否しないことを見てとったニキヤは、解毒剤を拒絶し、 神に、彼女の死の原因となった者たちへ 罰を下すよう訴えて息絶える。

■第3幕 影の王国
ニキヤの死に打ちのめされたソロルは、アヘンによって引き起こされた夢の世界に逃 避を求める。 死んだ巫女たちの精霊が彼のもとに現れ、朦朧とした幻影となってつづく。その中に いたニキヤが彼に許しを与える。



待ちに待ったパリ・オペラ座の全幕もの、『ラ・バヤデール』。しかも大好きなマニュ エル・ルグリがソロルを踊るので、とても楽しみでした。

当初の予定ではニキヤはオレリー・デュポンでしたが、怪我のため、昨年12月末にエ トワールに昇進したばかりのクレールマリ・オスタが、 ニキヤを踊りました。
男性エトワールのニコラ・ル・リッシュも怪我のため踊れず、前日の『ラ・バヤデー ル』も、ソロルをマニュエル・ルグリが踊り、2日連続でこのハードな役を 踊ったそうです。
来日直前に、アメリカとイラクとの戦争が始まり、波瀾づくめの来日公演でしたが、 素晴らしい踊りを披露してくれました。

パリ・オペラ座の『ラ・バヤデール』は、以前衛星放送の「クラシック・ロイヤルシー ト」で、ニキヤをイザベル・ゲラン、ソロルをローラン・イレール、 ガムザッティをエリザベート・プラテルで 観たことがありますが、やはり実際に観ると、セットの素晴らしさ、衣装の豪華さ、 そして息遣いを感じる踊りには引き込まれてしまいました。



第1幕第1場、寺院の前

パリ・オペラ座の『ラ・バヤデール』はまず、セットの寺院が美しいです。
細かな模様が描かれた、イスラムのモスクの内部は、黄金に輝き、3階ほどまで高く そのドーム状の屋根は続きます。
とても細かくモスクは再現され、本当にモスクの中にいるような気持になりました。
このバレエはインドが舞台で、19世紀末西洋の人がイメージした異国趣味による産物 です。勘違いも随所にあるものの、豪華絢爛たる作品です。

大僧正を始めとする僧達は、まるでインドやタイなどで見かける仏像(イスラムとい うより仏教)そのままです。
そして寺院の舞姫(巫女)達は、古い壁画から抜け出てきたようです。凝った髪飾り に、後ろに一本に束ねた三つ編み。手首を90度にして、腕を半分あげるポーズはシヴァ 神やヨガのポーズを 思わせます。
このようにこの舞台は、派手で様々な様式が混ざりあっているのですが、それにも関 わらず、洗練されていて、ギュスターヴ・モローの絵画を思い出しました。

勇敢な戦士、ソロルの登場。
宝石のアクアマリンのような輝く水色の華やかな衣装に、ブルーのターバン。
大きなジャンプで登場したマニュエル・ルグリのソロルは優美で品格があり、兵士と いうより、異国の王子様の印象でした。
ルグリの踊る時の体の柔らかさ優雅さは中性的でもあり、彼のソロルに、モローの絵 画『岩の上のサッフォー』を思い出しました。因にこのサッフォーは女性です。
『ラ・バヤデール』は英国ロイヤルバレエのもの、ナタリヤ・マカロワの振付の91年 収録したものをLDで観ましたが、その時のイレク・ムハメドフのソロルは、筋肉質で 兵士そのものだったので、このソロルという役は、踊るダンサーによって全く雰囲気 が違います。

そして巫女達の踊り、奴隷達が捧げる祈り。
奴隷達は上半身が裸で、焚火に向かっ て手を上げたり下げたりして祈りを捧げるのですが、その姿は インドというよりも、アフリカを感じました。

そして大僧正が登場します。
誇り高く尊敬も受けている大僧正は、上に高く伸びた金色の冠を被り、やはり金のち りばめられた豪華な衣装を身にまとっています。
そして大僧正は、ベールを被った一人の舞姫を連れてきます。
そして、僧正がベールを取ると、それが美しい舞姫ニキヤなのです。

ニキヤのクレールマリ・オスタは、双眼鏡で見ると、ものすごく美人でびっくりしま した。
真っ白な肌、マネキンのように整いすぎるくらい整った顔だちに、印象的な黒い瞳。 イザベル・アジャーニやイザベラ・ロッセリーニのような、 ヨーロッパの女優のように奇麗な人だなと思いました。
美人のせいか、役柄のせいか、ちょっぴり無表情。でも気品のあるニキヤでした。

大僧正は奴隷が止めるのも聞かず、ニキヤに夢中になり、高圧的にニキヤに愛を迫り ますが、拒絶されます。
彼女が愛しているのは、戦士ソロルなのです。

ニキヤは奴隷からの伝言で、とソロルと逢い引きをします(デートというよりも逢い 引きが似合います(#^_^#))。
ニキヤに永遠の愛を誓うソロル。見つめあい、そっと触れあい、二人のパ・ド・ドゥ は夢のように美しかったです。
ただこの踊りはニキヤが中心で、ソロルはサポートが多いので、ルグリの美しい踊り を、もっともっと観ていたかったです。

そして物陰からそれを見ていた大僧正は、激しく嫉妬します。
舞姫への道ならぬ片思いで、嫉妬を募らせる身分の高い槽といえば、ローラン・プティ が振り付けした『ノートルダム・ド・パリ』(1965)を思い出します。

この『ノートルダム・ド・パリ』には、ジプシーの踊子エスメラルダに恋を募らせ、 死に追い込んでしまうノートルダム大聖堂の副司教のフロロが登場します。
原作は『レ・ミゼラブル』のヴィクトル・ユーゴーです。
『ノートルダム・ド・パリ』は、ディズニーのアニメ映画『ノートルダムの鐘』など、 映画化もされています。
ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』が出版されたのは、1830年。『ラ・バヤデール』 を最初に振り付け、脚本にも参加したフランス生まれのマリウス・プティパは1812年 生まれなので、 十代の時に、『ノートルダム・ド・パリ』を読んでいたのかもしれません。
また『ラ・バヤデール』の初演は1877年の帝政時代のロシア。ロシア帝室バレエ団で した。ロシア貴族は、野蛮?なロシア語をあまり使わず、美しいフランス語を話して いたという フランス贔屓でした。

そして「絶対あの二人を裂いてみせる!ニキヤは私のものだ!」と宣言する大僧正の 激しいマイムで、第1幕第1場は終わります。
ちなみに大僧正は、ニキヤに愛を迫る時、冠をとりニキヤに差し出すのですが、『王 様と私』のユル・ブリンナーのようなスキンヘッドで、 やはり仏教徒だと思われます。でも寺院はイスラム式モスクです(^-^;)


第1幕第2場、ラジャの宮殿

ラジャは娘ガムザッティの花婿をソロルにしようと考え、ガムザッティにソロルの肖 像を見せます。
ガムザッティ役はレティシア・ピュジョル。
ニキヤ役のクレールマリ・オスタと同様に昨年エトワールに昇格したばかりです。
正統派の美人オスタとは反対に、少女のようなあどけなさを残す可憐なピュジョルは、 紫の地に金をふんだんにほどこした華やかな衣装で、 冠のような豪華な金の髪飾りをして、登場します。
オリエンタルな派手な衣装に、あどけなさとお姫さまらしい高慢さを持った、ピュジョ ルのガムザッティは、映画『スター・ウォーズ』エピソードシリーズの アミダラ姫、ナタリー・ポートマンを思い出しました。

美しいソロルの肖像に一目惚れしたピュジョル・ガムザッティは、にっこりと父に頷 きます。
この時点で、もうソロルの意志とは関係なしに決まったような状態です。カースト制 のインドでは、身分の高いラジャは絶対なのでしょう。
ガムザッティは一旦去り、ソロルが登場します。
ラジヤが娘との結婚の話をすると、困ったように受け流していたソロルですが、連れ てこられたガムザッティの美しさに、思わずその手を取ってしまいます。
迷い苦悩するルグリ・ソロルの表情、双眼鏡でじっくり眺めていましたが、踊りだけ でなく表情も本当に素晴らしかったです。
それにしてもたいして迷いもせず、ニキヤを裏切るソロルはひどい男ですが(笑)、 『白鳥の湖』の王子も『ジゼル』のアルブレヒトも同じタイプのヒーローです。 ヒロインを差し置いて、美人やお金持ちの令嬢と婚約するという墓穴を、自ら掘って います。
その愚かささえも素敵に見えるのは、本当に素晴らしいダンサーですが。
そして恋している女性が、男の人ではなく相手の女性に憎み責めるのは、バレエでも 同じです。

ラジャは大僧正に、ガムザッティとソロルの婚約を楽しそうに告げます。
ところ がソロルの失脚を望む大僧正は、ラジャにソロルとニキヤとのことを告げ口します。
案の定ラジャは激怒しますが、殺そうと考えたのはソロルではなくニキヤの方だった のです。ソロルを婿に迎える考えを変えず、そのことを大僧正に告げるとラジャは去 ります。
呆然とする大僧正。

その二人の会話を物陰でガムザッティは聞いてしまいます。
そしてガムザッティは、侍女のアイヤにニキヤを連れてこさせるのです。
ニキヤが来る前にガムザッティは、ソロルの肖像を眺め続け、やはり彼が好きなこと を自覚し、可憐な美少女は変貌します。

自分の前に跪くニキヤの顎を指で持ち上げて、じっと眺めるガムザッティ。
ニキヤのオスタと、ガムザッティのピュジョルは、背の高い美人と小柄な美少女(実 際の身長は分かりませんが)でタイプが違うので、その対象が良かったです。
最初からソロルとの婚約を言わずに「私の婚約者の肖像を見せてあげるわ♪」と、ニ キヤにソロルの肖像を見せるガムザッティ。
ピュジョル・ガムザッティはきつそうなメイクもありますが、苦悩というよりも嬉し そうにニキヤをなぶり、本当に意地悪そう。はまり役だと思いました。
「そんな!彼は私に愛を誓ったのよ。天に向かって!」と信じようとしないニキヤ。
ガムザッティはニキヤに懇願したり、宝石をあげようとしたり、ついにはニキヤの顔 まで叩いてしまいます。
そしてニキヤはたまたまそばにあった果物篭の横にあった短剣を掴むと、ガムザッティ に襲いかかりますが、危機一髪で侍女のアイヤに止められます。
自分のしたことに驚き、走り去るニキヤ。
そしてガムザッティは高らかに、ニキヤを殺すようアイヤに命じるのです。
ニキヤには悪いのですが、このガムザッティ、悪女そのもので、一番輝いていました。


第2幕 ソロルとガムザッティの婚約式。

ここで踊られるもので素敵なのは、ソロルとガムザッティが踊るパ・ド・ドゥとニキ ヤの花篭の踊り、そして黄金の像の踊りがあります。
黄金の像の踊りは、以前英国ロイヤル・バレエで観たマカロワ版では、静まり返った 寺院で、真ん中に鎮座する黄金の像が動き出し踊り出す、ミステリアスな 演出でした。
オペラ座のヌレエフ版は、普通のの踊りと同じように舞台横から登場します。
踊たのはアレッシオ・カルボネ。金色の冠を被り、濃いめのメーク、簡素だけれど、 すべて黄金色という派手な感じでよく分かりませんでしたが、 パンフレットで見ると、黒髪のラテン系の顔だちのハンサムでした。
マカロワ版では像の単独の踊りでしたが、ヌレエフ版は色を黒く塗った奴隷風の子ど も達が10人ほど、一緒に踊ります。
この子ども達は東京バレエ学校の生徒達でしたが、小さくてかわいかったです。以前 テレビで観た時はオペラ座バレエ学校の 子ども達でしたが、このバレエは東洋が舞台なので、今回の方が良かったです。
黄金の像の踊りは、踊りながら仏像や観音像のポーズをとったり、なかなか凝った踊 りで、魅せられます。
カルボネもそつなく踊って、たくさん拍手を貰っていましたが、先に英国ロイヤル・ バレエでこの役を熊川哲也さんの踊っているのを観て大感激したせいか、 今回は特に印象に残りませんでした。
その後に、頭に壷をのせた女性の《マヌー》踊り、こちらはパリ・オペラ座バレエ学 校の二人の少女と踊る踊りですが、 こちらの方がコミカルで楽しかったです。

そしてソロルが高さ3メートルはある、巨大な象の上に乗って登場します。タイなど で見られる彫刻の置物のような象で車輪がつき、リアルさよりも美しさを追求してい て見事でした。

それからソロルとガムザッティのパ・ド・ドゥ。
それまでガムザッティは、膝丈の長いロマンチック・チユチユでしたが、ここでは白 鳥の湖のような短く広がるクラシック・チュチュで 踊ります。
ガムザッティのこのチュチュはエキセントリックです。紫の地に金をあしらっている のですが、広がるチュールの裏が赤なのです。
今回のバヤデールで一番素敵だと思ったのが、このパ・ド・ドゥでした。
もうソロルがかっこ良くてかっこ良くて、ガムザッティのはっきりした踊りも素敵で した。
望まない婚約のはずなのに、ソロルは実に楽しそうな顔で踊ります。それが憎らしい ぐらいに美しいのです。もちろんガムザッティの顔も輝いています。
一瞬だけ、ソロルがニキヤを思い出したように遠くを見つめる部分はありますが、や はり踊り自体は輝いています。
二人の踊りが終わると、それぞれのソロなのですが、本当に素晴らしかったです。
ソロルの伸びやかなジャンプ、回転。一つ一つの動きが早く、本当に美しくて美しく て、魅了されました。
終わった後にものすごい拍手、歓声。やはりルグリは素敵でした。
こうなると気持も昂揚して、ガムザッティのソロも夢心地。はっきりした踊りで、素 晴らしかったです。

この素晴らしい踊りを観て思ったのが、ソロルのガムザッティへの気持。
ソロルはガムザッティのことを実は好きだったのではないかと、思うのです。
ラジャが結婚話を持ち出した時は笑って受け流していたのに、ガムザッティを見た瞬 間から態度が変わってしまった。
シェイクスピアの『夏の夜の夢』やワーグナーのオペラにある恋の媚薬などではなく て、本当に好きになったような気がします。
月と太陽のように、ニキヤとまるっきりタイプの違う、明るい輝きに満ちた女性。
ガムザッティやラジャは、策略など巡らさず、ソロルを信じても良かったような気が します。
でもそれをニキヤの側から考えると、財産や身分、そしてラジャの命令を断れなかっ たという理由なら、悲しみ憎みことができますが、 もしソロルがガムザッティ自身に惹かれていたら、絶望するような気がします。
そして悲劇が始まります。

婚約の披露宴で踊るよう命じられたニキヤが、悲しげに踊ります。
時々、ソロルの顔を伺いながら。彼女はソロルしか見ていません。
ラジャとガムザッティも踊りを見、そしてちらっとソロルの方を見ます。
やはり悲しげにニキヤを見つめ(この複雑な表情が素晴らしいです)、いたたまれな くなって立ち上がろうとするソロルを ガムザッティが押しとどめます。
そして侍女アイヤがニキヤに、花篭を渡します。
音楽のテンポが早くなり、花篭を持ったニキヤもくるくると回り、舞います。
素晴らしい踊りに拍手が起こります。
そしてニキヤは、悲しげに花篭から花を取っては落とします。『ハムレット』の、狂っ たオフィーリアのように。
ところが、花篭に潜んでいた蛇が、ニキヤを噛みます。
苦しみ悶えるニキヤはガムザッティが犯人とばかりに指差します。ニキヤに向かって 頷くガムザッティ。気の強さに驚きました。
驚いて立ち上がるソロルをガムザッティは押しとどめ、ソロルは動けなくなります。 けれど、さすがにニキヤが倒れた瞬間、 駆け寄ろうとしますが、今度はラジャに止められます。
大僧正がニキヤに解毒剤の瓶を渡します。
やっとの思いで受け取るニキヤでしたが、振り返るとソロルは、ガムザッティの傍に いて、顔を背けています。
ニキヤの手から瓶がこぼれ落ち、そのままニキヤは倒れます。ソロルが駆け寄った時 には、既に息絶え、幕が降ります。

この2幕は本当に素晴らしかったです。踊りも素晴らしかったけれど、ソロル、ニキ ヤ、ガムザッティの気持が伝わってきて、感動しました。
配役も良かったと思いますが、配役を反対にして、ニキヤをピュジョルが、ガムザッ ティをオスタが演じたらどうだったのだろうと思いました。
可憐でかわいそうな少女舞姫と、一見清楚で美人なお嬢様だけれど意地悪。少女マン ガ風ですが、これはこれで、はまっていそうな気もします。
それにしてもピュジョルのガムザッティの魅力的なこと。そしらぬふうを通すのでな く、ニキヤに自分が犯人が頷く姿はゾクゾクしました。しかも顔だちはあどけなくて、 罪の意識すらない。
ソロルの複雑な気持も、ルグリはとてもよく表現していたと思いますが、彼はやはり 演技以上に、踊りの素晴らしさに魅了されました。


第3幕 影の王国

マントのような布を翻し、ソロルの登場。
歎きにみちた彼の踊りは、夜のイメージの暗い舞台に浮き上がり美しく、色気を感じ ました。
そしてソロルは寝台に横たわり、アヘン(麻薬)を吸っているうち、精霊となった舞 姫達の幻影を見ます。
そしてその中にニキヤの姿を見るのです。

影の国の、舞姫達は色とりどりの1幕や2幕とは違い、白で統一したクラシック・チュ チュを身に纏っています。双眼鏡で見ると、細かい刺繍が施されていました。
その舞姫達が一人ずつ現れ、アラベスク・パンシェの繰り返し、そして次第に増えて いく。これは霊界の時間の「永遠」を現しているそうですが、 幻想的で美しく、生のオーケストラも素晴らしくて、感動的でした。
ここで踊られる踊りはもうインド的な雰囲気はなく、『白鳥の湖』や『ジゼル』の2 幕のような、白のバレエで、幻想的で美しいです。
そしてこの幻影とも、死者の国ともつかぬ世界でソロルとニキヤは踊り出しますが、 この時アクアマリンのような輝く水色だったソロルの衣装は、白となり、 ますます王子のような美しさとなりました。
ニキヤとソロルの踊りの間に踊られる、3人の舞姫達のヴァリエーションも美しく、 特に二人目のメラニー・ユレルの踊りは、足首の柔らかさを強調していて、素晴らし いと思いました。

けれどこの2幕でも、もっとも美しく魅せられたのはソロル。
ニキヤとソロルが真っ白な長いスカーフを持って踊るもっとも有名な踊り。この白い スカーフは、霊魂の結びつきの象徴だそうですが、やはりなんともいえず美しかった です。
そしてソロルのソロの美しいこと。2幕とは違った静かな愛を現していたと思います。
そして二人の魂の結びつきを現すような、美しい3幕が終わりました。

拍手の嵐で、幾度もカーテンコールがありました。
特にソロルのルグリへの拍手は素晴らしく、ほとんどがニキヤの手をとってのおじぎ でしたが、一度だけ一人で前に進みでました。
一段と拍手が大きくなり、「ブラボー」の声もたくさん上がりました。
2幕で登場したガムザッティのピュジョルへの拍手も大きかったので、少しニキヤの オスタに気の毒な気もしました。
でも、ピュジョルのガムザッティは本当に素晴らしかったです。


ヌレエフ版の『ラ・バヤデール』は、これだけでもとても素晴らしく、感動しました。
けれど踊り自体は素晴らしいものの、これだけだと、どううしても物語が中途半端な 結末なのは、いなめません。
3幕で終わってしまうと、ソロルの見た夢ということで終わってしまいます。
ニキヤの天に誓った復讐はどうなったのか。夢から覚めたソロルはどうなったのか。
実はこの後にもう一つ幕があり、明確な結末があります。
以前観た英国ロイヤル バレエのマカロワ版では、この幕がありました。

第4幕 大寺院の中

ガムザッティとソロルの結婚式が、大僧正の進行で、きらびやかに行われる。
しかしニキヤの愛を裏切ったソロル達は神の怒りに触れ、寺院の屋根に雷が落ち、寺 院は崩壊する。
人々は瓦礫の下に埋まり、死に絶える。
そしてソロルの魂は、天に上り、永遠にニキヤと結ばれる。

いつか4幕も追加されたパリ・オペラ座バレエの『ラ・バヤデール』も観てみたいと 思いました。


〈モローの絵画〉

  1. 「出現」
  2. 「ヘロデ王の前で踊るサロメ」
  3. 「岩の上のサッフォー」


素材提供:「ヒカルの旅の素材屋」 様「DANCE FACTORY」様